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名古屋高等裁判所 平成12年(ネ)287号 判決 2000年11月29日

主文

一  原判決中、主文二項1を取り消す。

二  右取消しにかかる被控訴人らの請求並びに被控訴人らの第一次予備的請求及び第二次予備的請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二〇分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの、負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  主文一、二項と同旨

2  控訴費用は被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

次のとおり訂正、付加するほか、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正、付加)

一  原判決七頁一一行目の「予備的請求1」を「第一次予備的請求」と改める。

二  同八頁九行目の「予備的請求2」を「第二次予備的請求」と改める。

三  同一〇頁七行目の冒頭に「甲の子である」を加える。

四  同一五頁一一行目の「予備的に」の後に「第一次的に」を加える。

五  同一六頁一行目の「また」を「第二次的に」と改める。

六  同一七頁一〇行目の「予備的請求2」を「第二次予備的請求」と改める。

(当審主張)

一  控訴人の当審主張

1  被控訴人の有している本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分権は、一審被告乙の有していた本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分権とは全く別のものであり、本件で問題になっているのは、一審被告乙の本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分権の控訴人への移転登記である。仮に、一審被告乙の本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分権の控訴人への移転登記が無効であったとしても、被控訴人らは一審被告乙の本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分権につき無権利であるから、右移転登記により、被控訴人らの本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分権を侵害することはあり得ない。

また仮に、一審被告乙から控訴人への右移転登記が無効であるとしても、その移転登記の抹消登記請求の登記権利者は一審被告乙で、登記義務者は控訴人とならなければならないのであって、被控訴人らが登記権利者となることはない。

2  一審被告乙には離婚した妻Eとの間に長男F、長女Gがいるほか、認知されている非嫡出子としてHがいる。したがって、仮に、一審被告乙が甲の相続につき相続欠格になった場合、右の三名が甲の代襲相続人となるので、被控訴人らが、一審被告乙から控訴人に移転登記されている遺産である本件一ないし四、七ないし一二の各土地の相続持分を取得することはない。そのため、控訴人に対し移転登記の抹消登記請求できるのは、右の代襲相続人三名であって、被控訴人らは右移転登記の抹消請求権を有しない。

3  以上のとおりであるから、被控訴人らの本件抹消登記請求は失当である。

二  右主張に対する被控訴人の応答

1  本件一ないし四、七ないし一二の各土地について、登記簿上は、一審被告乙の共有持分が四分の一と表示されており、甲のその他の相続人である被控訴人X1、同X2及び丙についても共有持分が四分の一と表示されているが、甲を被相続人とする遺産相続については、遺産分割が未了であり、一審被告乙の共有持分は確定されたものでもなく、また、一審被告乙には、生前贈与が相当あり、その特別受益を考慮すると、一審被告乙の具体的相続分は四分の一を相当程度下回るのである。

したがって、権利の外観である登記簿のうえで四分の一と表示されている一審被告乙の共有持分は、実体的な権利関係である一審被告乙の共有持分権を正しく反映しているものではなく、被控訴人らの具体的相続分の一部が一審被告乙の相続分の一部として表示されているといえるのであり、一審被告乙の共有持分四分の一の登記は、被控訴人らの実体的な共有持分権を侵害する形でなされているものである。

以上のとおりであるから、登記簿上に表示されている一審被告乙の共有持分権四分の一は、実体的な権利関係を正しく反映しているものでないばかりか、被控訴人らの実体的な共有持分権を侵害する表示となっているのであり、一審被告乙名義の共有持分の移転登記が被控訴人らの共有持分権を侵害することはあり得ないとの控訴人の主張は失当である。

2  また、不動産の共同相続人の一人が、その持分権に基づき、単独で、当該不動産につき登記簿上所有名義を有する者に対し、その登記の抹消の請求をできることは、最高裁判所昭和三一年五月一〇日第一小法廷判決、同昭和三三年七月二二日第三小法廷判決において明らかにされているところである。

本件で登記名義人とされている持分移転登記は、無効な行為を原因としてなされた登記であり、抹消されるべき登記であるから、被控訴人ら本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分権者は、その無効な登記の登記名義人に対し、保存行為に属する妨害排除請求権に基づき、その抹消を請求できるのである。

3  一審被告乙の実体的な共有持分が有効に移転している場合と、無効行為により移転していない場合とを同列に論ずることはできない。一審被告乙のもとに登記名義が存する場合には、法定相続の登記がなされていても、後に遺産分割が成立すれば、それにより、一審被告乙の実体的な権利を超えてなされている共有持分登記について更正登記手続等により正しくすることができる。

第三  当裁判所の判断

一  控訴人は、当審において、被控訴人らの本訴請求中、本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分四分の一につき、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の一審被告乙持分全部移転登記の抹消登記手続を求める部分を除くその余の部分については不服申立をなさず、したがってその部分については当審における口頭弁論の対象となっていないから、以下、控訴人が第一審の判決の変更を求める本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分四分の一につき、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の一審被告乙持分全部移転登記の抹消登記手続を求める部分、同請求についての第一次予備的請求(一審被告乙が控訴人に対し、本件一ないし四、七ないし一二の各土地の一審被告乙の持分四分の一につき、平成五年一月一八日なした代物弁済を取り消す。控訴人は、一審被告乙に対し、本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分四分の一につき、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の乙持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。)及び第二次予備的請求(控訴人は、一審被告乙に対し、本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分四分の一につき、一審被告乙が原判決別紙被相続人目録記載の被相続人の相続欠格者となったことを条件として、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の一審被告乙持分全部移転得の抹消登記手続をせよ。)についてのみ判断を加える。

二  まず、被控訴人らが控訴人に対し、本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分権に基づく保存行為として、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の一審被告乙持分全部移転登記の抹消登記手続を求めることができるか否かにつき検討する。

甲が、平成五年一月一八日に死亡し、本件一ないし四、七ないし一二の各土地を、甲の子である被控訴人X1、被控訴人X2及び一審被告乙並びに丙が共同相続したこと、本件一ないし四、七ないし一二の各土地には、平成五年一月二五日受付第一五三八号をもって、同年一月一八日相続を原因として、被控訴人X1、被控訴人X2、丙及び一審被告乙の各持分を四分の一とする所有権移転登記が経由されたこと、本件一ないし四、七ないし一二の各土地には、平成五年一月二五日受付第一五四〇号をもって、控訴人Yに対し、同年一月一八日代物弁済を原因とする一審被告乙持分全部移転登記が経由されたことは当事者間で争いがない。

右事実からすれば、被控訴人X1、被控訴人X2は、本件一ないし四、七ないし一二の各土地につき四分の一の共有持分を有しているところ、その持分に相当する所有権移転登記を有しているということができる。

そうとすれば、仮に一審被告乙から控訴人への本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分権の譲渡が無効であり、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の一審被告乙持分全部移転登記が真実に合致しない登記であるとしても、被控訴人X1、被控訴人X2の共有持分権は何ら侵害されていないといわなければならず、被控訴人X1、被控訴人X2はその共有持分権に基づく保存行為としてその一審被告乙持分全部移転登記の抹消登記を請求することはできないというべきである。

これに対し、被控訴人らは、被控訴人らの当審主張二1のとおり主張するが、仮に一審被告乙が特別受益者であったとしても、それは遺産分割申立事件など具体的な相続分の確定を必要とする審判事件における前提問題としてのみ審理判断されるべき事情であって、遺産分割手続が未了の間は、各相続人が甲の遺産につき法定相続分に応じた共有持分権を有していると解されるのであるから、被控訴人らの右主張は採用できない。

また、被控訴人らは、被控訴人らの当審主張二2のとおり主張するが、最高裁判所昭和二九年(オ)第四号、同三一年五月一〇日第一小法廷判決民集一〇巻五号四八七頁及び最高裁判所昭和三一年(オ)第一〇三号、同三三年七月二二日第三小法廷判決民集一二巻一二号一八〇五頁は、いずれも当該不動産の共有者が権利を有しないにもかかわらず単独で所有名義を有している者に対してなした登記抹消請求にかかる事案であって、本件とは事案を異にするので、被控訴人らの右主張は採用できない。

さらに、被控訴人らは、当審主張二3のとおり主張し、その趣旨を必ずしも明らかとはいえないが、遺産分割に当たり、相続人以外の第三者の無効な持分移転登記があると支障が生ずるので、その登記の抹消を求める必要があるとする趣旨であると理解される。しかしながら、相続人以外の第三者の無効な持分移転登記があるとしても、その抹消登記を当該第三者に請求しうるのは、遺産分割前においては当該持分を譲渡したとされる相続人に限られると解すべきである。なぜならば、もともと、相続人は第三者にその持分を自由に譲渡しうるものであって、その持分が第三者に譲渡された場合には遺産分割の手続で当該物件を分割できなくなるものであるうえに、持分を譲渡した相続人が関与しない訴訟手続において、その持分移転登記の抹消登記の当否が争われるというのは相当でないからである。他の相続人としては、全相続人及び当該第三者を被告として、当該遺産につき、相続財産であることの確認請求をして、その認容の判決を得、そのうえで遺産分割の手続を経るほかないというべきである。そうとすれば、被控訴人らの右主張は採用できない。

三  第一次予備的請求(請求原因8(一)、(二))について

被控訴人ら、丙及び被告乙が、甲の死亡により、相続税として元金総額二〇億四四二二万七六〇〇円の連帯納付義務を負担することになったとしても、被控訴人らが、一審被告乙に対し、右総額の四分の一相当額及びこれに対する平成五年一一月二日以降の延滞税額につき、事前求償権を取得したとする根拠は全く存しない。

そうとすれば、被控訴人らには、詐害行為取消権の成立要件である被保全権利が存在しないので、詐害行為は成立しない。

四  第二次予備的請求(請求原因8(三))について

1  控訴人は、被控訴人の主位的請求と第二次予備的請求とは、請求の基礎が同一でないから第二次予備的請求は却下されるべきである旨主張するが、右各請求は同一の不動産の登記の抹消にかかる請求であって、請求の基礎は同一であるというべきであるから、その訴えの追加的併合は許されるべきである。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

2  そこで、請求原因8(三)につき検討するに、証拠(甲二三)によれば、一審被告乙には離婚した妻Eとの間に長男F、長女Gがいるほか、認知されている非嫡出子としてHがいることが認められる。

右事実によれば、仮に、一審被告乙が甲の相続につき相続欠格になった場合においても、右のF、G、Hの三名が甲の代襲相続人となるのであるから、被控訴人らが、本件一ないし四、七ないし一二の各土地につき、それぞれ四分の一を超える持分を有することにはならないと認められる。

そうとすれば、被控訴人らが控訴人に対し、本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分四分の一につき、一審被告乙が原判決別紙被相続人目録記載の被相続人の相続欠格者となったことを条件として、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の一審被告乙持分全部移転登記の抹消登記手続を求める根拠は存しないというべきである。

五  以上によれば、被控訴人らの控訴人に対する本件一ないし四、七ないし一二の各土地の共有持分四分の一につき、名古屋法務局名東出張所平成五年一月二五日受付第一五四〇号の一審被告乙持分全部移転登記の抹消登記手続請求並びに第一次予備的請求及び第二次予備的請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。

第四  結論

よって、原判決中、主文二項1を取り消し、右取消しにかかる被控訴人らの請求並びに被控訴人らの第一次予備的請求及び第二次予備的請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条、六四条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

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